【読書感想しりとりリレー】幸田文の箪笥の引き出し/青木玉

幸田文の箪笥の引き出し (新潮文庫)

幸田文の箪笥の引き出し (新潮文庫)

一日遅れで感想UPです。
作者の青木玉さんは、ご承知の通り幸田露伴先生から脈々と続く文豪一家の3代目です。
露伴先生の作品は残念ながらまだ手を出していないのですが、お母さんの幸田文さんもすてきな文章をかかれる方です。が、個人的には文さんより玉さんの文章のほうがすんなり心に入ってきます。たぶん、それは人生の生き方の相似によるものなのでしょう。
 
この作品は、玉さんが、お母さんである幸田文さんが生涯身につけた着物の数々について、その思い出や成り立ちを書き連ねたエッセイ集です。写真もふんだんに使われていて見た目にも美しいし、着物についての知識も増えるというおまけつき。なにより、玉さんが文さんを、文さんが玉さんをそれぞれ思いやる気持ちに心和ませられます。
 
玉さんの結婚式の着物を作る話から始まり、最後は、文さん最期のときの着物の話まで、全19話からなるこの作品の中でも、最後の2話が特にいい。昏睡する母の横で、それでも目が覚めたときに母の目に入らないようにひっそりと白い着物を仕立てる玉さんの気持ちがひたひたと心に迫ってきます。
 
玉さんの作品は、どれも言葉がやさしくあたたかい。母が老父(祖母)を想う気持ち、子(玉さん)が母を想う気持ち、母が子を想う気持ち、それが自然にはぐくまれてきた結果なのだろうと思いますが、こういう風に上手に年を重ねたいなあと思わせられる作品です。